成宮 祥介
第2代の部会長に就任いたしましたJANSIの成宮祥介と申します。
リスク部会は、原子力学会における技術部会として久々に2017年に新設された部会であり、300名を超える原子力学会会員の皆様のご協力、ご指導のおかげで5年目を迎えております。初代部会長の東京大学山口彰教授を中心に、我が国におけるリスクにかかる研究開発、リスク評価の実践、教育などに役立つ活動を続けてまいりました。
福島第一原子力発電所の2011年の過酷事故から10年以上を経過し、時間はかかっておりますが再稼働のプラントは増えており、リスクインフォームド・パフォーマンスベースドの概念を基にした検査制度の実施も実績を積みつつあります。リスク評価の中でも、PRA(確率論的リスク評価)については、規制審査における提示、事業者の安全性向上における適用、研究機関等における新しい方法の開発などが、積極的に鋭意取り組まれております。リスク部会の活動としては、国内専門家に加え海外専門家にも入ってもらいリスク評価や活用に関するセミナーやシンポジウムの開催、国際会議の主催共催、研究専門委員会へのPRA手法の現状把握と今後の方向性にかかる協力、学会誌におけるリスクにかかる解説記事の特集などを積極的に展開してきました。
リスク評価とその活用に関しては、どこかのレベルで完成ということはなく、継続して改善しながら取り組んでいくものだと考えます。それはリスク評価の対象とする施設やその活動に不確実さを無視できない状態まで、拡張して対策を打つ必要が生じているからと考えられます。PRAなどのリスク評価方法は、その不確実さを対象システム全体の連動として捉え定量評価できるものである点が特徴であり、対策に大きな余裕を持たせること以外の対策をとることに繋がる重要なものです。特に、我が国のように地震や津波などの自然災害が多発する地域において原子力施設を安全に使い利得を享受するためには、外的事象PRAの実施とそこから得られる知見を活用することが有効です。
RIDM(リスク情報を活用した意思決定)は我が国において取り組まれています。一方、IAEAや米国NRC、EPRIなどではIRIDM(リスク情報を活用した統合的意思決定)の概念が活用されています。IRIDMはPRAなどのリスク評価の分析結果はもちろんのこと、各定論的な評価結果や経験、経済的要素、社会からの意見などを統合して意思決定し、モニタリングしながら問題があれば改善していく仕組みで、原子力施設の種々の問題解決のための判断に効果的であるとされています。リスク部会ではこのような先進のリスク情報活用にかかる動向を紹介し議論する機会を、今後とも提供していきます。
リスク評価とその活用により、目の前だけでなく将来におけるリスクにも着目し、関係する多くの要素を考慮することは、原子力施設の安全な利用を実現することに貢献し、将来の人類の存続に繋がると期待できます。リスク部会も会員各位の諸活動に役立つように、活発な活動を進めていく所存です。ますますのご支援を賜りますようお願い申し上げます。
初代部会長(山口 彰)ご挨拶